やわらかサイエンス

海の水は何故塩辛い? - 水のサイクルを考える

第14回担当:重廣道子(2004.07)

太陽の陽射しが強くなり、海岸での水遊びが楽しい季節になりました。海の水と言えば塩辛いものです。「河川や湖の水とは違って何故海の水は塩辛いのだろう?」と、誰もが少なくとも一度は疑問に思ったことがあるでしょう。そこで、今回はその疑問に対する答えを探しながら、「水のサイクル」というものを考えてみましょう。


塩は化学記号ではNaClと表記され、Na+とCl-という二つのイオンから構成されています。海水中の塩の重さは、海水の総重量の約3.5%を占めると言われています。一体この大量の塩はどこから来るのでしょうか。そして、何故海に蓄積されているのでしょうか。


海水の塩分の主な供給源は、1. 大陸の侵食、2. 海底熱水噴出孔、3. 海底火山、と考えられています。


降雨や雪解け水が河川を流れる間、あるいは地下に浸透した水が土壌や岩盤中を流れる間に、水は通過する土壌や岩石中の鉱物と反応し、Na+とCl-やその他様々な化学成分を溶解します。この過程は「侵食」と呼ばれます。多種の成分を含んだ水は河川を流れ、最終的に海へたどり着きます。


水のサイクル

海へ流出した水は、時を経て蒸発します。しかし、水中に溶解したNa+とCl-やその他の成分は、植物や生物に消費される以外は蒸発することなく残留するため、経時に従い濃縮されます。つまり、水中の塩分濃度は上昇します。河川や湖の水は、一般的に塩辛くありません。これは、常に水が出入りしているからです。


それならば、何故the Great Salt Lakeやthe Dead Seaの水は塩辛いのでしょうか?このような高い塩分を持つ湖は、長い地球の歴史の中で水の出口を失ってしまいました。河川から供給される水や溶解成分は、これらの湖で行き止まります。岩石や土壌中から浸出した塩は水と一緒に空気中へと蒸発できませんので、水中に残留します。その結果として、海のように湖水中の塩分濃度が上昇したと考えられています。


更に、海底には熱水噴出口と呼ばれる場所があります。温泉が噴出している様子を見たことがあるかと思いますが、同様の現象は海底でも起こっています。温泉噴出口では、沸石や硫黄などの鉱物が沈殿しています。これは、地下から様々な化学成分を溶解した熱水が上昇し、地表付近で冷却され、溶解しきれなくなった分の成分が鉱物となって析出するためです。つまり、熱水には様々な成分が溶け込んでいるという証拠なのです。海底の熱水噴出口からも、様々な化学成分・鉱物を溶解した熱水が噴出しています。


また、海の中にも火山があり、噴火しています。熱い岩石(溶岩)は、水温を上昇させるなど、岩石に触れる水と岩石中の鉱物との反応速度を高め、より多くの成分の溶出を促進します。


以上のようにして、化学成分や鉱物、その中でも特にNa+とCl-イオンが海水中に浸出し、濃縮されているのです。もちろん海水だけでなく、河川、湖の水などの地表水、それから地下に浸透した地下水も塩分を含んでいます。しかし、水が常に移動し、また、塩の供給源が限られているため、一般的な地下水中の塩分量はわずかであり、我々の舌が塩辛さを感じないだけなのです。


飲料水として消費されている水、それから、今注目されている「ミネラルウォーター」も塩(岩塩)などの鉱物、化学成分を含んでいます。ミネラルウォーターには、「軟水」と「硬水」という分類表示が付いていますが、これは水に含有されている鉱物を構成する化学元素(主にカルシウムやマグネシウム)の分量の指標です。マグネシウムやカルシウムを多く含有している水は硬水と呼ばれ、鉱物の含有量が少ない水は軟水と呼ばれます。


日本の地下水の多くは軟水に分類されます。隆起のある地形と限られた陸地面積のため、地下水の流速が速く、滞流時間が比較的短いのです。つまり、岩石と水が触れている時間が短い為、鉱物や様々な成分が岩石から溶出するのに十分な時間がありません。また、地盤が地下水とは反応し難い鉱物組成を持つ岩石(火山岩)から構成されているため、溶解されている鉱物は比較的低量です。一方で、ヨーロッパの水の多くは硬水です。これは、広大な大陸である為、地下水の滞留時間が長く、また、地下水が移動する岩石の多くが水と反応しやすい堆積岩(石灰岩)のため、鉱物が多く溶け出しているからです。


塩辛い海水、そして我々の飲む地下水は、水の移動経路で溶解した様々な物質を含んでいます。地下水の供給源である雨水は、地球上の水が一度蒸発し、それが凝結して降下してくるものです。したがって、大気汚染により空気に粉塵が多く混じっていれば、塵を含んだ水が落ちてきます。空中に排出された二酸化炭素も溶解されます。したがって、大気汚染は水質汚染も招きます。農薬の大量使用や危険物の間違った廃棄は、土壌や地層を汚染するだけでなく、そこを通過する地下水を汚染することにもなります。つまり、人間にとっての血液のように、水は地球の健康度合いを反映していると言えます。


石油、ガス、金属などは資源としての価値が常に重視されていますが、水の価値は軽視されがちです。その重要性が見直され始めたのは、残念なことに近年の地下水汚染、水の利権をめぐる争いなどからです。日本では中東のように石油は産出しませんが、豊富な水が存在します。良く言われることですが、渇いたのどを石油は潤してくれません。金を与えても植物は生長しません。水を貴重な資源として考え、扱って下さい。