やわらかサイエンス

紅葉の科学

第5回(2002.11)

秋の紅葉が美しい季節になりました。もみじ狩りをしながら、「何故、樹木の葉は秋になると紅や黄色に変わるのだろう」と、ふと思う方も多いことでしょう。辞典を開いて調べ、「なるほど」、と納得しながら、翌年の秋になるとまた、「何故...」と、同じ質問を繰り返している方(私も含めて...)のために、 今回は紅葉の科学を復習します。


春から夏にかけて、樹木の葉は緑色に見えます。緑色の色素は「クロロフィル」という物質に起因します。「クロロフィル」は、太陽の光の原色を構成している赤緑青の三色の中から、赤と青の光を吸収します。緑の光は吸収されずに反射されるため、葉は緑色に見えるのです。


「クロロフィル」は不溶性で、細胞の中の葉緑体と呼ばれるものに付着しており、この葉緑体で光合成が行われます。「クロロフィル」は光を吸収し、二酸化炭素+水を、酸素+炭水化物に換えるためのエネルギーを供給するのです。「クロロフィル」は大変不安定な化合物であり、強い太陽光により分解されてしまいます。葉は常に「クロロフィル」を合成して作っていますが、そのためには、暖かい温度と太陽光が必要です。従って、夏には大量の「クロロフィル」が分解されると同時に合成されるのです。


樹木は成長すると共に、昆虫に食べられたり、病気にかかった古い葉を落とし、新しい葉を付けます。常緑樹は特別な葉を持ち、寒さと乾燥に強いのです。そのため常緑樹は冬になっても水がある限り、光合成し続けます。


一方で、落葉樹は冬に備えて、葉を落とし始めます。葉の基には、離層と呼ばれる層があります。この層を細い管が通っていて、水を葉に運び、光合成により生成された糖を木に送り返します。夏の間に樹木は、「グルコース」と呼ばれる糖を必要以上に生成します。過剰分はでんぷんとして、必要になる時まで保存されます。秋になる頃には離層はふくれあがってしまうため、水を送っている細い管の流れは止まってしまってしまいます。水が無くなってしまうと、葉は光合成が出来なくなり、やがて落ちてしまうのです。


以上の事をふまえて、秋になると何故樹木の葉は黄色や紅に変わるのかを考えてみます。


葉が黄色くなる現象には、「クロロフィル」の他に葉に含まれている「カロチン」という色素が係わっています。「カロチン」もまた、葉緑体に含まれています。「カロチン」と「クロロフィル」が同時に存在している時に赤、青緑、そして青の光が吸収され、葉は緑色の光を反射するため、緑色に見えます。  「カロチン」は光からエネルギーを吸収する役割を持ち、そのエネルギーは「クロロフィル」に運ばれます。そして「クロロフィル」はこのエネルギーを光合成のために使うのです。


「カロチン」は「クロロフィル」よりずっと安定している物質です。そのため、気温が低くなって「クロロフィル」が合成されにくくなる秋には、「カロチン」が残ります。


「カロチン」は青と青緑の光を吸収します。吸収されない赤と赤味を帯びた緑色が反射されるため、葉は黄色に見えるのです。


紅葉の紅い色には、「アントシアニン」と呼ばれる色素が関係しています。「クロロフィル」や「カロチン」と異なり、「アントシアニン」は細胞の膜に付着しておらず、細胞液の中に溶けています。この「アントシアニン」によって生成される色は、細胞液のpHの変化に大変敏感です。もし細胞液が強酸性に傾くと、大変鮮やかな赤色を葉に与え、逆に弱酸性の時は、紫味を帯びた色となります。 「アントシアニン」は熟したリンゴやブドウの皮の赤い色の原因となるものです。「アントシアニン」は、細胞液中の糖とある種のタンパク質間の反応により生成されます。この反応は、細胞液の糖値が大変高くなるまで起こりません。先に述べたように、秋には離層がふくれあがってしまうため、水を送る細い管の流れは止まって しまってしまいます。


葉には糖が過剰となり、「アントシアニン」が生成されやすい環境ができます。「アントシアニン」は、青,青緑,そして緑の光を吸収するため、赤い光が反射され、葉が赤く見えるようになります。


いちょう、プラタナス、カバの木やヒッコリーの葉はカロチンを含んでいるため、クロロフィルが生成されなくなると黄色くなります。かえでやツタは、糖分が異常に増えやすいため、アントシアニンが生成され、紅く見えます。


以上に述べたような仕組みから、晴れの日が続き、寒く乾いた夜がやってくると、よりあざやかな紅葉を見ることが出来るのです。ここで説明したことは、現在一般に知られている紅葉の仕組みですが、例えばカロチンの役割など、まだ解明されていない点もあります。