コラム

動的緩和法による静的解析

陽解法のすすめ/第4回担当:里 優(2016.4)


今回は、これまで説明した動的陽解法により静的問題を解くという、ちょっと不思議な方法をご紹介します。動的陽解法は、連立方程式を解かないために必要なメモリが小さく、問題によっては計算時間の短縮が期待できます。この特徴をそのまま活かして、静的問題にも動的陽解法を応用しようという狙いです。


この方法は「動的緩和法」と呼ばれます。この方法では、運動方程式を解く際に大きな減衰を加えて計算して、加速度と速度が0となった静的平衡状態を求めます。早速、これまで使ってきた解析モデルで動的緩和法を試してみましょう。


図-1 解析モデル
図-1 解析モデル

表-1 解析に用いた物性値一覧
物 性 単位
E ヤング率 160 MPa
ν ポアソン比 0.3
γ 単位体積重量 15 kN/m3
g 重力加速度 9.8 m/s2
Vp P波速度 375 m/s
Vs S波速度 200 m/s

最初に、モデル側面の水平変位を拘束した上で、物体力として重力を加えます。単位体積重量に相当する荷重がモデル全体に加わります。減衰は加えません。


結果を図-2と動画-1に示します。この場合は、棒状のモデルが上下に振動します。棒状のモデルに関しては、振動する際の固有周期に関する理論解があります。


式-1

ここに、Tは片端が固定された長さlの棒の(1次の)固有周期です。このモデルの長さは100mでP波速度が375m/sなので固有周期は1.07sであり、解析結果と合致しています。


図-2 モデル最上部の鉛直変位
図-2 モデル最上部の鉛直変位

動画-1 解析結果

さて、次に減衰を加えて解析を行いますが、減衰係数の基準として臨界減衰係数を求め、これに対する比率を与えて減衰係数を定めることにします。臨界減衰係数とは、モデルが振動することが無くなる限界の減衰を与える係数です。これ以下の減衰ではモデルが振動し、これ以上の減衰ではモデルの変形が終了するまでの多くの時間を要する(過減衰)ようになります。


式-2

ここに、ccは臨界減衰係数 ωはモデルの固有円振動数です。


片端が固定された長さlの棒では、固有円振動数が次のようになります。


式-3

したがって、臨界減衰係数は式(1)も考慮して


式-4

となります。これと計算に用いる減衰定数の比率をhとし、この値を変化させ計算してみましょう。


式-5

結果を図-3に示します。減衰係数を大きくしていくと振動が減衰し一定値に収束する変形となりますが、臨界減衰係数のときに最も速く一定値に達することがわかります。


図-3 減衰を加えた解析結果
図-3 減衰を加えた解析結果

この変形の収束値は、モデルの加速度と速度が0となった静的平衡状態の値です。言い換えれば、減衰係数を与え動的陽解法で計算を進めて、変位の変化が充分小さくなったときの値をもって静的解析の解とすることができます。これが動的緩和法です。このとき、減衰係数として臨界減衰係数を与えた場合に、最も素早く解にたどり着くことができることがわかります。ちなみに、このモデルでは重力を加えているため、変形の収束値は自重解析で得られる値と同じです。


一般の解析モデルで固有円振動数を求めることは大変ですが、地下を取り扱う問題では矩形の解析領域を設けることが多く、臨界減衰係数の近似値として、式(4)においてlに解析モデルの最大幅や高さを与えた際の値を用いることで良い収束が得られることを、筆者は経験しています。ただし、境界条件によっては収束に時間がかかることもあり、この辺りはノウハウの蓄積が必要なようです。


動的緩和法を使って計算した例を以下に示します。この例では、トンネルの掘削に伴う地盤の変形を解いていますが、良好な収束のもとで変形や応力が求められています。臨界減衰係数には、解析領域の最大幅を用いました。なお、動的緩和法の計算フローを「動的陽解法と動的緩和法について」に示します。


次回は、いったん動的陽解法を離れ、地下水流れのような場の問題を陽解法で解く方法を説明します。


図-4 動的緩和法を用いた掘削解析の例(左:変形、右:主応力分布)
図-4 動的緩和法を用いた掘削解析の例(左:変形、右:主応力分布)