コラム

連載を始めるにあたって

陽解法のすすめ/第1回担当:里 優(2016.1)


地層科学研究所では、地下の地盤や岩盤あるいは地下水などを相手に、防災や環境保全に資する数値解析を数多く実施しています。 最近は、広大な3次元の領域を相手にする問題や、地盤の変形と地下水流れの相互作用を考慮した解析など、大規模で複雑な解析が増えてきています。 有限要素法などでは、このような場合には大規模な連立方程式を解く必要があり、計算時間やメモリ容量の増大に頭を悩ますことになります。


これを解決する方法の一つは、陽解法を採用することです。 陽解法を一言でいえば、連立方程式を解かず、時間刻みでの繰り返し計算によって解を得る方法です。 このため、大規模な問題も少ないメモリで解け、計算時間も短縮できる可能性があります。 この陽解法の持つ可能性に迫るのが、本シリーズのテーマです。


まずは、運動方程式の解法を例に、陽解法の特徴を簡単に説明しましょう。


有限要素法では、解くべき運動方程式が次のような連立方程式として表現されます。 ただし、簡単のため減衰項は省きます。


式-1

ここに、[M]と[K]はそれぞれ質量マトリクスと剛性マトリクス、{U}と{F}はそれぞれ節点変位ベクトルと節点外力ベクトルです。


まず、左辺第1項の時間微分を、次のように差分近似することにします。


式-2

また、式(1)の左辺第2項の変位ベクトルには、既知である現在の時刻tでの変位を用いることとします。 すると、連立方程式は次のようになります。


式-3

求めるべき時刻ttでの変位について書き直すと次のとおりです。


式-4

つまり、求めるべき時刻ttでの変位を、既知である現在の時刻tでの変位と、同じく既知である時刻ttの変位より求めることとなります。さらに[M]を対角化すれば、[M]-1は逆行列ではなく単なる係数での除算となります。 したがって、式(4)は連立方程式ではなくなり、節点ごとの並列式となります。



このように、変位を過去の既知の値より求める方法と、係数マトリクスの対角化により除算を可能にして連立方程式を組み立てず、節点ごとの並列式として変位を求める方法の組み合わせを陽解法と呼びます。 この方法では、連立方程式を解く必要がなくプログラムがシンプルなものとなります。 また、式(4)の右辺第2項での剛性マトリクスと変位の乗算を要素単位で行い、得られた値を節点で合算することとすれば、全体剛性マトリクスを組み立てる必要がありません。 したがって、大規模な問題であってもメモリは小さくて済みます。 計算時間に関しては、節点数や自由度が大きくなっても節点数や自由度に比例して計算時間が増加するだけです。 連立方程式を解く場合には、問題が大規模で複雑になればなるほど、指数関数的に計算時間が増加します。 ただし、陽解法では安定な解を得るために時間刻みΔtの制限があり、小さい時間刻みが要求される問題では、計算時間が膨大となる場合があります。


本シリーズでは、このような特徴を持つ陽解法を用いて、さまざまな問題を解いて行こうと考えています。


次回以降では、まず動的問題を陽解法で解いてみます。また、動的緩和法と呼ばれる方法で、静的な問題も陽解法で解く不思議な方法もご紹介する予定です。


図-1 動的陽解法の解析例、図-2 減衰を考慮した解析例
図-1 動的陽解法の解析例      図-2 減衰を考慮した解析例        .

続いて、地下水流れや物質移行などの場の問題を陽解法で解いてみます。 これと動的緩和法を組み合わせて、地盤変形と地下水流れの連成解析も行ってみます。


図-3 密度流解析におけるElder問題の解析例(上:濃度分布、下:地下水流速分布)
図-3 密度流解析におけるElder問題の解析例(上:濃度分布、下:地下水流速分布)

図-4 トンネル変形と地下水流れの連成解析(左から変形、地下水流速、間隙水圧)
図-4 トンネル変形と地下水流れの連成解析(左から変形、地下水流速、間隙水圧)

さらには、これに熱伝導を加えて地盤の熱応力や凍結問題へ挑戦してみます。 できれば、地盤変形と地下水流れの連成解析を動的問題として解いてみたいとも考えています。


メモリや計算時間の制限などからこれまで解けなかった問題に対し、陽解法は一つの解決策を与えてくれると考えています。 是非ご一緒に、陽解法の世界をご体験ください。