コラム

0.001℃の分解能を持つ温度計

問題解決のヒント/第1回担当:里 優(2015.04)


地層科学研究所の主たる業務は、地盤や岩盤、地下水などを対象とした数値解析ですが、担当者の解析対象に対する理解を促し、解析結果の信頼性やリアリティの向上を図るために、現場での計測や実験業務も行っています。このシリーズでは、地層科学研究所が計測や実験の場面で課題に遭遇した際に、これを解決するために採用したアイデアをご紹介していきます。皆さんの問題解決のヒントとなれば幸いです。今回は、0.001℃の分解能を持つ温度計とこれを使った熱伝導率測定についてです。


この温度計を開発したのは、地層科学研究所と業務協力を行っているインターテクノ株式会社です。本温度計は、独自のアルゴリズムを採用した電気回路により、ドリフトやノイズが極めて小さく、安定して0.001℃の分解能を得ることができる測定器となっています。地殻変動の計測分野などでは、水晶式の高精度温度計測などが行われており、0.0001℃の分解能が実現されていますが、とても高価なものです。本温度計は、一般的な熱電対や測温抵抗体を使い、気軽に0.001℃の分解能での計測が可能です。


図-1は、斜めにした雨どいに砂を敷き水を流した状態で、上流からわずかに温度の高い水を流した際に、下流に設置した本温度計が捉えた温度変化です。周辺より0.01℃程度高い温水の塊が通過する様子が、見事に捉えられています。


図-1 温度変化の計測例
図-1 温度変化の計測例

この技術は、処分場での漏えい検知や温水をトレーサとする試験などで応用が期待されますが、ここでは地盤の熱伝導率測定に適用した例をご紹介します。


解決すべき問題となったのは、現地で採取した、含水飽和している地盤試料の熱伝導率測定です。例えば、地盤中に埋めたヒートパイプで冷暖房を行う際には、地盤の熱伝導率を推定して熱変換効率を算定する必要があります。地下の地盤では地下水で飽和していることが多いので、この状態での熱伝導率を求めなければなりません。一般的な熱伝導率測定法では、試料の両端部に温度を設け、運ばれる熱量より熱伝導率を求めますが、飽和試料を測定する際には水が漏れないケースが必要となり、この部分の影響を評価しなければなりません。また、温度差が大きい場合には水分の蒸発や対流が発生し、熱伝導率が正しく求まらないことが懸念されます。


そこで、この0.001℃の分解能を持つ温度計を用い、細線法により熱伝導率を測定する方法を考案しました。細線法とは、十分細く長いヒーターで試料に一定の熱量を加え、ヒーターの温度変化を求める方法で、温度変化が時間の対数に対して直線となることから、この傾きより熱伝導率を算定します。理論式は、次のようなものです。


熱伝導率を算定の理論式

ここに、λは試料の熱伝導率、qは単位長さあたりの細線の発熱量、T1、T2は時刻t1、t2におけるヒーターの温度です。


0.001℃の分解能で温度計測を行えば、1℃以下程度の温度上昇で素早く測定を終えることができ、水の蒸発や対流を抑えることが期待できます。開発した装置は、図-2のようなもので、細線のプローブと定電力供給装置、コントロール用パソコンからなります。細線のプローブ部では、図-3と図-4に示すとおり、ヒーターと温度センサを細いパイプに埋め込んでいます。このプローブを試料にさして測定します。


図-2 熱伝導率測定装置
図-2 熱伝導率測定装置

図-3 細線プローブ部拡大
図-3 細線プローブ部拡大

図-4 細線プローブ部の構造(単位:mm)
図-4 細線プローブ部の構造(単位:mm)

測定結果の一例を図-5に示します。温度上昇は0.5℃程度に抑えられており、計測も数分で完了することがわかります。時間の対数に対して温度変化の直線部も得られており、測定がうまくいっていると判断できます。このように、0.001℃の分解能を持つ温度計を用いることで、飽和試料でも熱伝導率の計測が可能となりました。


地層科学研究所では、高精度の測定技術を応用して、様々な問題解決に取り組んでいます。是非ご相談ください。


図-5 熱伝導率測定結果の一例
図-5 熱伝導率測定結果の一例