コラム

連成解析への招待(トンネルの変形と地下水流れ)

数値解析最前線/第9回担当:里 優(2009.04)


前回は、地盤の変形と間隙水の流れの連成解析について紹介させていただきました。地盤や岩盤の分野で、変形と地下水の流れの相互作用に気をつけなければならない典型的な例は、トンネルの掘削問題です。


今回は、連成解析によってトンネル掘削時に生ずるどのような現象を表現することができるのか、あるいは、これがトンネル掘削を安全に行うためにどのように役立っていくかを述べたいと思います。シミュレーションには、前回と同様に地層科学研究所で開発を進めているG-SUPRAを用いました。


以下に示します結果は、土被り20mの位置に幅4mのトンネルを素掘りで「一瞬にして」掘削した場合のものです。透水係数は、10-8m/sと比較的小さい値としています。解析モデルを、図-1に示します。


図-1 解析に用いたモデル
図-1 解析に用いたモデル

トンネルを掘削すると、トンネル掘削面を支えていた応力(地圧)が取り払われるために、トンネル壁面は内空に向かって変形します(図-2)。このとき、トンネル壁面では同時に地下水も取り払われるために、壁面では間隙水圧が0となります。トンネル壁の奥部では間隙水圧が高い状態が保たれるために、水圧の勾配が生じ、地下水もまたトンネル内空に向かって移動していきます(図-3)。また、地下水の移動によって、トンネル周囲の間隙水圧は徐々に低下していきます(図-4)。


図-2 トンネル掘削による変形
図-2 トンネル掘削による変形

図-3 地下水流れの発生
図-3 地下水流れの発生

図-4 間隙水圧の変化
図-4 間隙水圧の変化
(上段左から掘削直後、20日後/下段左から100日後、200日後)
青色-黄色になるにつれ間隙水圧は高い

この解析例では、透水係数が小さく設定されているため、地下水が移動する速度が小さく、間隙水圧の変化も緩やかに生じます。トンネルを一瞬にして掘削することは、もちろんできませんが、この地下水が移動する速度に比べて、早い速度でトンネルを掘削した場合には、この解析例の状態に近づくことになります。


さて、トンネル掘削時には、トンネル掘削面を支えていた応力(地圧)が取り払われると述べましたが、この「応力」には間隙水圧も含まれています。間隙水圧は、地盤や岩盤に変わって地下水が地圧に対抗することにより生じています。したがって、地盤や岩盤の変形は、この「応力」から間隙水圧を引いた応力、いわゆる「有効応力」に左右されることになります。


そこで、この「有効応力」の変化を時間を追って見ていくことにします(図-5)。なお、図の直線は、最大圧縮有効応力と最小圧縮有効応力の方向と大きさを表現しています。まず、掘削直後にはトンネル壁面に直行する方向の応力は0となります。しかし、トンネル壁の少し奥部には間隙水圧が高い状態が残っており、この結果トンネル壁面に直行する方向の有効応力は引張の値(図では赤色)となります。


図-5 有効応力の変化
図-5 有効応力の変化
(上段左から掘削直後、2日後/下段左から5日後、10日後)
青:圧縮応力、赤:引張応力い

この状態は、地盤や岩盤を押さえつけている応力よりも間隙水圧が高く、地盤や岩盤にとっては、その構造が引きちぎられようとしていることになります。地盤や岩盤は、圧縮応力には強いのですが、内部に空隙やクラックなどの欠陥を含んでいるために引張の応力には弱い性質を持っています。このような状態がトンネル周囲に発生する場合には、地盤や岩盤の構造が破壊されることもあり得ます。したがって、このような状態になることが無いように、トンネル前方の間隙水圧が充分低下していることを確認しながら、トンネル掘進を行うことが望ましいと考えられます。特に透水性の低い地盤や岩盤では、間隙水圧が低下しにくいことから、水抜き孔や先進導坑などにより、積極的に間隙水圧を低下させる必要があります。


一方、トンネル内空に向かう地下水流れによって、地盤からは地下水が抜き取られ、地盤が収縮することによって地表面沈下が発生します(図-6)。また、地表面付近では間隙水圧が低下し、場合によっては地盤が不飽和となります。地表面に重要な構造物がある場合や、地下水を利用しているような場合には困ったことになります。


図-6 200日後の地表面沈下
図-6 200日後の地表面沈下

このような場合には、注入工などによってトンネル周囲に透水性のより低いゾーンを設け、地下水が抜き取られるのを防ぐことが考えられます。図-7のケースでは、トンネル周囲2mにわたって、透水係数を一桁下げたゾーンを設けています。このような措置によって、地下水流れが緩慢となり、地表面沈下が抑制されることがわかります(図-8)。


図-7 改良ゾーンを設けたモデル
図-7 改良ゾーンを設けたモデル

図- 200日後の地表面沈下(改良有)
図-8 200日後の地表面沈下(改良有)

ところが、透水性を下げたゾーンや、その背後にあたる地盤では、間隙水圧が低下しにくくなります(図-9))。この結果、図-10に示すように有効応力が引張の領域が解消されにくくなり、先にのべたとおり、この領域では地盤が不安定となることが懸念されます。


図-9 間隙水圧の変化(改良有)
図-9 間隙水圧の変化(改良有)
(上段左から掘削直後、2日後/下段左から5日後、10日後)

図-10 有効応力の変化(改良有)
図-10 有効応力の変化(改良有)
(上段左から掘削直後、2日後/下段左から5日後、10日後)

これを回避するためには、剛性の高い支保工などによって、この領域に残る間隙水圧以上の圧力をトンネル内側から加えてやることが考えられます。トンネル掘削後に壁面に圧力をかけることは大変難しいのですが、掘削によって生ずるトンネル壁面の変形を使う方法があります。すなわち、先受け工などの補強工によってトンネル内空に向かう変形を抑制すると、この反力として補強工がトンネル壁面を押します。これにより、壁面に圧力をかけることができるわけです。


このように、トンネル掘削で行われている注入工や先受け工は、連成解析を通してみても理に適ったものであることがわかりました。また、トンネル周囲の地盤や岩盤の安定性を確保するためにも、連成解析によるシミュレーションが有効であることもお分かりいただけたことと思います。次回は、3次元の連成解析によって、トンネル掘削と地下水流れの相互作用について、よりリアルなシミュレーションをご覧いただこうと考えております。