コラム

非弾性的変形に伴う岩石の透水性変化

実験編/第24回担当:木下直人(2007.03)


前々回およびその前の回において,岩盤内に存在する割れ目に垂直応力やせん断応力が作用した時の割れ目の透水性の変化についての実験例を紹介しました。今回は,岩石内に新たに割れ目が発生した時の透水性の変化に関する実験例を紹介したいと思います。


地下岩盤内にトンネルや空洞を掘削する際に,周辺岩盤内での新たな割れ目の発生を避けられないことはよくあります。特に軟岩の場合,硬岩と比べて強度が小さいため,周辺岩盤は応力的に厳しい条件におかれることが多くなり,微小き裂の発生やせん断破壊面の形成といった非弾性的な変形が進行することになります。このような非弾性的変形の進行に伴って,岩盤の透水性がどのように変化するのかを把握することは工学的に重要であり,これに関連した室内実験も行われてきています。


図-1 透水試験概念図
図-1 透水試験概念図

このような目的で実施される透水試験には,通常 図-1(a)に示すような,三軸圧縮型透水試験装置を用いた一様流による方法が用いられています。この方法により測定されるのは,供試体軸方向の透水性の変化のみであり,最も透水性の変化が著しいと考えられる,せん断破壊面に沿った方向の透水性の変化の測定には適していません。そこで,私たちは,図-1(b)に示すような,放射流による方法を開発し,供試体半径方向の透水性の変化を調べることにしました。そして,一様流による方法と放射流による方法を組み合わせて実施すれば,非弾性的変形の進行に伴う岩石の透水性の異方的変化を調べることができると考えました。


図-2 放射流による試験における水の流れ
図-2 放射流による試験における水の流れ

図-2に示すように,供試体の中央部には小さな孔(注水孔)が設けられており,上下両端を完全に止水することにより,注水孔から供試体内に流れ込んだ水は全て供試体の側面に排水されます。供試体側面にはナイロンメッシュが巻かれており,サイドドレーンとしての役割を担っています。その外側はメンブレンで覆われていますので,ナイロンメッシュ内を通った水は,側液と混じることなく有孔板に流れ込みます。


図-3 非弾性的変形に伴う岩石の透水性変化(来待砂岩)
図-3 非弾性的変形に伴う岩石の透水性変化(来待砂岩)

新第三紀中新世の凝灰質砂岩である来待砂岩を用いて,実際に試験を行ってみた結果を図-3に示します。Case1,2,3は放射流による試験結果であり,有効拘束圧はそれぞれ0.3MPa,1.0MPa,3.0MPaとなっています。Case4は一様流による試験結果であり,有効拘束圧はCase2と同じ1.0MPaです。同じ有効拘束圧1.0MPaで,半径方向の透水係数の変化を測定したCase2と軸方向のそれを測定したCase4を比較してみると,Case2では,ピーク強度時の透水係数は初期状態のそれとほぼ同じ(約1.3倍)ですが,それ以降の軸差応力が急激に低下する過程では透水性が著しく増加し,軸ひずみ5%における透水係数は初期状態の20,000倍以上になっています。一方,Case4では,ピーク強度時の透水係数は初期状態の約3倍に増加していますが,軸差応力が急激に低下する過程での透水性の増加はCase2と比べてはるかに小さく,軸ひずみ5%における透水係数は初期状態の10倍程度です。


一般に,軸差応力が増加しピーク強度付近になると,岩石の基質部内に多数の微小き裂が発生しますが,これらのき裂は軸方向に平行なものが卓越することから,相対的に軸方向透水係数の増加率が高くなっていると考えられます。ピーク強度以降の軸差応力が急激に低下する過程では,せん断破壊面が形成され,それは通常供試体の上下方向に貫通していませんので,半径方向の透水係数のみがせん断破壊面の形成に伴う透水性の著しい増加を正確に反映していると考えられます。したがって,非弾性的な変形の進行に伴う岩石の透水性の変化を正確に把握するためには,一様流による方法と放射流による方法とを組み合わせて試験を行う必要があると考えられます。




参考文献
1) 郷家光男,石井 卓,木下直人,船山潤一:せん断変形下における軟岩基質部の透水特性の変化,第32回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.167-172, 2003.