コラム

有限差分法コードFLAC 第9回 ~不連続面のモデル化 インターフェース要素~

数値解析/有限差分法編/第9回担当:中川光雄(2006.10)


今回は,不連続面をモデル化するための要素である「インターフェース要素」と呼ばれる要素の驚くべき性能についてお話します.地盤,あるいは構造物を含んだ地盤には不連続となる箇所がいくつかあります.例えば,地盤と構造物の間の接触面で生じるすべり・剥離現象,再活動型や通年活動型の地すべり面,硬い岩盤に見られる節理面や断層面などが該当することはご理解頂けるかと思います.このような箇所でのすべり現象や剥離現象をモデル化できる何らかの解析技法が必要になってきます.そこで登場したのがよくご存じのGoodmanら(1968)により開発されたジョイント要素です.ジョイント要素は,図-1に示しますように有限要素法(FEM)の平面ひずみ要素,あるいはソリッド要素の節点間に軸方向,およびせん断方向にばねやスライダーを用いることにより,不連続な挙動を表現しようとするものです.当時は画期的なものであったかと思いますが,これには次の制約があることはあまり認識されていません.


図-1 Goodmanらのジョイント要素
図-1 Goodmanらのジョイント要素

(制約1)
節点1と節点4は同じ座標でなくてはなりません.同様に,節点2と節点3は同じ座標でなくてはなりません.解析結果として得られる各節点の変位から相対せん断変位や剥離が計算されます.(図-1参照)


(制約2)
節点1,2の面(図では平面要素B)の接触相手は節点3,4の面(図では平面要素A)ですが,せん断によるずれがどれだけ大きくなっても,接触相手の面を替えることはできません.


もう少し具体的に言いますと,図-2に示しますように,平面要素Bと平面要素BBの間にあるジョイント要素が滑りにより,平面要素Cの真上にきたとします.この場合,ジョイント要素の上辺(平面要素BBの下辺)の接触相手は,平面要素Cの上辺にあるべきでしょう.ところがいくら滑りが大きくなっても,このジョイント要素の平面要素Bと平面要素BBの間という関係は無くなりません.


図-2 ジョイント要素の相対せん断変位
図-2 ジョイント要素の相対せん断変位

(制約3)
ジョイント要素の面で解析モデルが完全に隔離するような計算はできません.ジョイント要素を中に含む解析モデルは全体として連続している必要があります.また,ジョイント要素の一部に剥離が発生しても剛性を低下させたばねを介して接触が維持されます


上記の(制約1)はモデル作成時の煩雑さとなりますが,最近はプリプロセッサで自動的に作成してくれるものもあるようです.防災保全を対象とした場合に問題となるのは(制約2)です.これですと,計算過程での新たな接触を取り扱うことはできないため,不連続面での回転や大きなせん断すれを表現できないことになります.土塊(移動層)の不動層に対する分離運動である地すべりの解析では,解析結果の解釈がかなり難しいものとなりそうです.


このような懸案に対して,岩塊群をブロックの集合と考えて運動方程式に基づいて系の大きな変形を微少時間毎に追跡して計算を行う離散化モデルの個別要素法(DEM)がCundall(1971)により開発されました.


では、地すべりの解析は、「個別要素法などの不連続体解析でやればいい」という話になりますが,FLACはあくまでも,連続体解析のためのコードです.連続体解析であっても不連続面の表現に関して,上記の制約が全てなくなればいいということになります.可能な限り,ありのままに表現できる数値解析を用いれば,難しい解釈(工学的判断)で頭を悩ませることも少なくなるでしょう.これを見事に実現しているのがFLACにありますインターフェース要素です.これを以下にご説明します.


図-3 インターフェース要素
図-3 インターフェース要素

図-3をご覧下さい.A面側とB面側にある節点は二重節点とする必要はありません.また,1つのインターフェース要素は1つの節点に関して定義されます.ここで節点Nに着目します.節点Nは対面の要素2の一部であるM-P面と対峙しています.計算が始まると,まず節点NがM-P面と接触しているかどうかを判定します.接触しているとなれば図に示すような接触バネやスライダーから成る力学モデルが発生します.接触していないと判定されればそれらは発生しません.従いまして,インターフェース要素は最初からピッタリ合わさっている必要はなく,解析モデル全体が完全に分離されていても問題ありません.ここで,節点Nに関するインターフェース要素の接触長さLnで示された区間です.Lnは,M-N長さの半分とN-P長さの半分の和で定義されます.各接触節点での増分変位と力の関係は以下の式(1)と式(2)で表されます.


式(1) (1)

式(2) (2)

このようにすると,せん断による大きなずれや回転による大きな剥離が発生しても何ら問題が起こらないことがお分かりかと思います.ちなみに,スライダーは次式(3)のクーロン摩擦で規制されます.


式(3) (3)

続いて、インターフェース要素を使った簡単な例題を2つご覧ください.


例題1:一面せん断試験のシミュレーション


アニメーション1:一面せん断試験のシミュレーション
アニメーション1:一面せん断試験のシミュレーション

まずは,アニメーション1をご覧下さい.岩石供試体の接触面の長さは80mmです.まず,下の岩石を固定して10MPaの上載圧を上の岩石上面に載荷します.次に,上盤のみを20mm右方向に強制変位させています.アニメーションでご覧頂いたのはこのプロセスです.赤で表示された箇所にインターフェース要素が定義されています.インターフェース要素の強度特性は,すべり摩擦角=30°です.ですからせん断強度は,10.0*tan30°で計算される5.7MPaとなります.これはせん断変位-せん断応力グラフ(青線)でも確認できます.上の岩石と下の岩石でメッシュを合致させていません.また,先の図-3から連想して頂くと,せん断前に相手方であった要素がせん断中に順次隣の要素に入れ替わっていく様子がご覧頂けたかと思います.


例題2:再活動型の地すべり解析


地すべり現象は,地中亀裂からの雨水浸透および斜面上方からの圧力をもった地下浸透水の供給によって,すべり面の水圧が上昇し有効応力が低下して崩壊が発生するものです.地すべりは明確なすべり面が既知であるため,これをインターフェース要素でモデル化します.


物性値一覧
  土質・岩種 力学モデル 弾性係数E
(Mpa)
ポアソン比
密度ρ
(kg/m3)
粘着力C
(Mpa)
内部摩擦角
φ(deg)
移動層 礫混じり
粘土
弾塑性体 5.0 0.4 1800.0 0.02 10.0
不動層   弾性体 1000.0 0.2 2000.0
  土質・岩種 力学モデル 垂直剛性kn
(Mpa/m)
せん断剛性ks
(Mpa/m)
粘着力C
(Mpa)
摩擦角
φ(deg)
すべり面 滑石
粘土
クーロン滑りタイプ 4.0 4.0 0.05 10.0
図-4 再活動型地すべりの解析例
図-4 再活動型地すべりの解析例

図-4をご覧下さい.地すべり面の傾斜角は,約10°,地すべりの範囲が83mの再活動型地すべりです.移動層は最大厚さ16mのレキ混り粘土ですのでこれを弾塑性体でモデル化します.また,地下水位はFLACの中で浸透流解析を実施するかあるいは既知の水面を与えるかによって定義できますが,ここでは簡単のため考慮しません.初期自重解析の後,図-4に示した地すべり発生時の物性値を与えると,地すべり土塊の移動が始まります.


アニメーション2:再活動型の地すべり解析
アニメーション2:再活動型の地すべり解析

アニメーション2をご覧下さい.移動層が塑性変形しながらもほぼ一体化して移動している様子が分ります.実在の現場に適用した例は,来年(2007年)1月に土木学会主催で開催されます「第36回岩盤力学に関するシンポジウム」にて発表する予定です.弊社Webサイトにも掲載しますので,是非ご覧ください.


今回は,厚さのない不連続面のモデル化に威力を発揮するインターフェース要素の驚くべき性能についてお話ししました.「驚くべき」と言いましても,通常のジョイント要素に対しての印象を多少誇張して言ったまでです.全体剛性マトリックスが不要である陽解法ならではの技法ですので,決して複雑怪奇なことをしているわけではありません.次回は,地すべりや斜面崩壊を防止する抑止杭やアンカー工のモデル化について触れてみたいと思います.