コラム

間隙水の流れと粒子の移動を同時に解く?

数値解析最前線/第3回担当:里 優(2005.12)


地盤や岩盤に関連する技術では、これらの空隙を流れる地下水の影響を無視することはできません。例えば、地震により発生する液状化現象では、地盤の振動により間隙水圧が変化しますし、降雨に起因する斜面崩壊などでも、地盤や岩盤の間隙水圧が増加しこれらを崩壊に至らしめます。


このような現象をより微細な視点で観察した場合には、地盤粒子の再配列が発生する、地盤粒子が間隙水の流れにしたがって移動する、あるいは地盤粒子が地盤の空隙を埋めていく、といった現象にも行き当たるかもしれません。もし、間隙水の流れと地盤粒子の移動を、これらの相互作用を考慮しながらモデル化することができれば、コンピュータ上で地盤と間隙水圧が織り成す複雑な現象をシミュレートできるはずです。


京都大学の三善先生、松岡先生、山田先生は、このような技術に挑戦されています。今回は、これらの方々のご協力を得て、間隙水の流れと粒子の移動を同時に解く技術についてご紹介いたします。なお、今回用いました資料は、全てこれらの方々が作成されたものをお借りしております。


間隙水のような流体の解析技術には様々な手法が提案されておりますが、流体と粒子の相互作用を同時に解くとなると、そう容易いものではありません。これを解決するために、格子ボルツマン法と呼ばれる手法と、以前にもご紹介した個別要素法とを組み合わせた手法を用いています。


格子ボルツマン法とは、流体を仮想粒子の集合体であると近似して粒子挙動を計算し、流体流動を表す手法です。詳細な説明は専門書に譲ることとしますが、この手法は、複雑な境界形状を有する空隙を通過する流体の解析などに適しているとされています。この手法では、例えば2次元の解析領域を各方向一定の長さをもつ格子で離散化します。仮想粒子は各格子点上にのみ存在と考え、時間とともに隣接する格子点に移動します。このような取り扱いをすることによって、後に示します粒子との相互作用を表現しやすくしています。


この手法によって解かれた、非常に興味深い解析事例をご紹介いたします。資料は、山田先生より拝借いたしました(第34回岩盤力学シンポジウム)。


図-1が解析モデルです。地盤や岩盤の空隙の中を間隙水が流れ、その流れに乗って小さな粒子が移動する、といった設定です。例えば、粒子状の汚染物質やグラウト粒子などが地盤の中を流れていく場合が、これに近いものと考えられます。


図-1 間隙を流れる粒子のモデル化
図-1 間隙を流れる粒子のモデル化

図-2が解析結果です。左側から粒子が間隙水とともに流れ込んできます。粒子は地盤の間隙へ流れ込んで行きますが、流れは均一ではなく、最も移動しやすい場所を選んで動いているようです。また、粒子の移動は間隙の形状の影響を受けて分散していきます。このような現象は、岩盤の亀裂を対象としたトレーサ試験などでも観察されています。すなわち、この解析はコンピュータ上でトレーサ試験のシミュレーションを行っているのであり、間隙の形状を様々に変化させて、地盤や岩盤の分散性と間隙の形状との関係を調べることができるわけです。


図-2 解析結果(粒子の移動)
図-2 解析結果(粒子の移動)

さらに興味深いのが、この粒子の移動の影響を流れが受けていることです。図-3が流体の流線の変化を示したものです。図-2と比べながら見てみると、粒子が流れを堰き止める働きをするために、流線は時々刻々変化していきます。この流線の変化が、さらに粒子の移動を制限していくわけです。このような複雑な相互作用を、格子ボルツマン法と個別要素法を組み合わせた手法が見事に表現している例だと思います。


図-3 解析結果(流線の変化)
図-3 解析結果(流線の変化)

数値シミュレーションの利点は、このように実験だけではなかなか理解することができない微視的な現象を、視覚的に表現できることです。また、境界条件や初期条件を任意に変化させてシミュレーションを行うことができます。数値実験とでも呼べるこのような手法は、例えばCO2の地中貯留のシミュレーションや、メタンハイドレートの採掘問題、あるいは土壌汚染や放射性廃棄物の地層処分の問題など、幅広い応用が期待できると思います


今回の資料をご提供いただきました方々に感謝いたします。