コラム

有限差分法コードFLAC 第4回

数値解析/個別要素法概論編/第4回担当:中川光雄(2005.03)


「有限差分法コードFLAC 第2回」では、FLACが地盤の破壊後挙動を如何にうまく表現できるかをご覧頂くために、地盤に荷重を載荷する問題の代表例として、支持力問題を取り上げました。そこでは、地表面に鉛直下向きの分布荷重を載荷したことによりせん断帯(すべり面)が発生する状況が再現されており、しかも、すべり面に囲まれた領域が定常的に動き続ける(一般に塑性流動と呼ばれます)解析結果が得られています。そして、FLACによる支持力の値が理論支持力による値と良好に一致している状況をご覧頂きました。まだ 第2回をご覧になっていないお客様は、是非ご覧になられることをお勧め致します。「収束しないかもしれない」という心配をせず、塑性流動などの破壊後の地盤挙動を良好に表現できるというFLACの最大の有用性を最もよくご理解頂ける例題であると思います。


さて今回は、掘削問題に対してFLACによる結果が理論解と良好に一致することを空洞掘削問題を通してご覧頂きます。ここで適用します理論解は、Salencon(1969)による無限境界における円孔掘削問題1)です。この理論解は、等方応力状態にあるMohr-Coulomb則に基づく弾完全塑性体地山を対象として、半径aの空洞に対する塑性半径(円形状に塑性領域となる半径)、空洞中心からの半径方向距離rに対する半径方向応力σrおよび円周方向応力σθ、半径方向変位urを得ることができます。(理論の詳細は、理論式一覧をご覧下さい。)解析対象は、直径D=12mの円形空洞として土被りを50mと想定して初期応力をP0=1.1(MPa)の等方としました。空洞周辺地山はある現場で卓越していましたシルト岩を例として、力学特性を表―1に掲載しました。なおダイレタンシー角ψ=0°の場合とダイレタンシー角ψ=27°の場合の両方を実施しました。


表―1 地山の物性値
表―1 地山の物性値

■理論解と比較するためのFLACによる解析モデルの条件

  • layout 解析モデルは、平面ひずみ条件のもと、これを無支保の状態で掘削しました。
  • 初期応力を等方状態としていることから、図―1に示すように1/4対称モデルとしました。
  • 空洞壁面からモデル境界までの距離を5D(すなわち60m)としたので、このことより境界が無限遠方にあると見なしました。
  • 理論解と比較しやすいように空洞壁面より4.0mまでの区間でのメッシュ間隔は0.2mと細かくしています。解析は、微少変形モードで実施しました。


図―1 解析モデル(a)全体
(a)全体
図―1 解析モデル(b)トンネル付近の拡大
(b)トンネル付近の拡大
図―1 解析モデル

理論解とFLACによる数値解析の結果の比較として、まずは塑性半径を取り挙げます。図―2をご覧ください。理論解による塑性半径9.31mに対して、FLACによる塑性領域は9.20mです。因って誤差は1.2%となりますので、良好な結果であると言えます。このことからFLACはロックボルトや鏡ボルトの長さを決定する際などには信頼性のある結果を与えてくれていると言えます。なお、塑性半径はダイレタンシー角には依存されません。


図―2 塑性半径(理論)と塑性領域(FLAC)の比較
図―2 塑性半径(理論)と塑性領域(FLAC)の比較

次に、トンネル軸からの半径方向距離rに対する半径方向応力σr、および、円周方向応力σθについて比較します。図―3と図―4をご覧ください。ここで距離に関しては空洞半径aで除し、応力に関しては初期応力P0で除してそれぞれ無次元化した値で表示しています。この図より、ダイレタンシー角が異なる場合でも、σr、σθともに理論解と良好に一致していることがお分かりかと思います。


図―3 応力分布の比較(ダイレタンシー角ψ= 0°の場合)
図―3 応力分布の比較(ダイレタンシー角ψ= 0°の場合)

図―4 応力分布の比較(ダイレタンシー角ψ= 27°の場合)
図―4 応力分布の比較(ダイレタンシー角ψ= 27°の場合)

最後に、半径方向変位urについて比較します。図―5と図―6をご覧ください。ここで距離と変位の両方に関してトンネル半径aで除し、それぞれ無次元化した値で表示しています。図より、ともに理論解と良好に一致していることがお分かりかと思います。ダイレタンシー角ψ=27°の場合の方がダイレタンシー角ψ=0°の場合に比較してダイレタンシーの効果2)によりトンネル内空面付近での変位が大きくなっている状況が見られます。


図―5 半径方向変位の比較(ダイレタンシー角ψ= 0°の場合)
図―5 半径方向変位の比較(ダイレタンシー角ψ= 0°の場合)

図―6 半径方向変位の比較(ダイレタンシー角ψ= 27°の場合)
図―6 半径方向変位の比較(ダイレタンシー角ψ= 27°の場合)

今回は、初期応力は等方、地山の力学特性は弾完全塑性という条件で、空洞掘削問題における理論解とFLACによる解析結果の比較をご覧頂きました。5Dのモデル境界を無限遠方としたことに対する議論の余地はあると思いますが、この条件下であっても納得できる答えが出ていると思います。次回からは、初期応力が異方性である場合や周辺地盤の力学特性をひずみ軟化とした場合なども検討していきたいと存じます。


理論式(Salencon/1969)

塑性半径R0の一般形は、式(1)で表現される。
(1) (1)
ここで、aは半径、P0は等方初期応力の絶対値、Piは内圧である。ただしここでは内圧を考慮しない。
(2) (2)
弾性領域と塑性領域の境界位置における半径方向応力σreは、次式(3)で記述される。
(3) (3)
塑性領域内部における応力は、次式(4)で表現される。
(4) (4)
ここで、rはトンネル軸からの距離である。
弾性領域内部における応力は、次式(5)で表現される。
(5) (5)
塑性領域内部における変位は、次式(6)で表現される。
(6) (6)
弾性領域内部における変位は、次式(7)で表現される。
(7) (7)
ここで、
(8) (8)
以上の式中において、νはポアソン比、ψはダイレタンシー角、Gはせん断弾性係数である。


参考文献
1) Salencon, J. "Contraction Quasi-Statique D'une Cavite a Symetrie Spherique Ou Cylindrique Dans Un Milieu Elastoplastique," Annales Des Ponts Et Chaussees, 4, 231-236, 1969.
2) 中川光雄・蒋 宇静・江崎哲郎:大変形理論の岩盤挙動および安定性評価への適用,土木学会論文集,No.575/Ⅲ-40, pp.93-104,1997.