コラム

応力-ひずみ関係の非線形を考慮した解析

数値解析/有限要素編/第3回担当:里 優(2001.04)


有限要素法を用いて岩盤の変形解析を行う際には、岩盤の応力-ひずみ関係が必要です。とりあえずは、岩盤を線形弾性体と見なすことが多いと思います。これは、決して無理な近似ではなくて、岩盤に力を加えると、それに比例して変形が増加し、増加の度合いは岩盤の特性として定めるのですから、変形解析に必要な要素はほとんど盛り込まれています。私の経験でも、トンネルの変形予測などでは、線形弾性体近似で行った解析で種々の考察が可能です。


線形弾性体と岩盤の最も大きな違いは、岩盤は大きな力を加えると壊れる場合がある、ということです。この性質を有限要素解析に加えれば、もう少し岩盤らしさを表現することができます。円柱形の試料を用いた岩石の三軸圧縮試験からは、次のような性質が明らかになっています(図-1)。


図-1 岩石の応力-ひずみ線図の一例
図-1 岩石の応力-ひずみ線図の一例

 ・軸差応力(軸応力と封圧の差)が大きくなると、岩石の剛性(ヤング率)は徐々に低下していく (軸応力とは、円柱形の供試体の軸方向に作用させる応力、封圧は円周方向に作用させる圧力で、 周圧、拘束圧とも呼ばれる)。
 ・軸差応力は最大値(強度点)を示した後に低下していく。封圧が小さい場合は、急激に低下する。
 ・軸差応力の最大値は、封圧が大きくなるほど高くなる。
 ・軸差応力を加えていくと、体積ひずみが収縮から膨張に転じる(ダイレイタンシー)。


これらを考慮した岩盤の応力-ひずみ関係は、非線形のものとなるために、岩盤の変形解析には少し工夫が必要です。 このような非線形性を有限要素解析で表現する方法は、大きく分けて二つあります。


一つは、岩石に少しずつ荷重を加え、その荷重増分に対して剛性を定めて増分変形を求める方法です (図-2)。 岩石試験などで得られた応力-ひずみ線図では、荷重レベル(あるいはひずみレベル)ごとに 接線剛性(ポアソン比も)を求めることができるので、次の荷重増分を加えるときに剛性を変更しながら計算を進めます。


図-2 剛性を変化させる方法
図-2 剛性を変化させる方法

もう一つの方法は、ニュートン法の応用です (図-3)。 例えば、岩盤を線形弾性体と仮定してある要素の応力を 計算してみます。その岩盤は、軸差応力が増えるにつれ剛性が低くなる性質があるとすると、 計算結果のひずみにこの剛性を乗じて応力を求めると、計算結果より低い値が得られます。これは、 この要素に本来生ずべき応力ですから、要素の応力をこの値に修正した上で、現在の応力との差分を再度この要素に加えます。 これは、余分な応力を周りに再配分することに相当します。これを繰り返すことで、岩盤の応力-ひずみ線図上に 解を乗せることができます。


図-3 ニュートン法の応用
図-3 ニュートン法の応用

この二つの解析方法は、同じような答えとなるように見えます。実際、岩石試験のように単調な載荷に対する 岩盤の変形を求めようとする場合には、同じ答えになります。しかし、初期応力が存在する地下での トンネル掘削を解析する場合では、ちょっと面倒なことになります。


前回説明しましたように、トンネル掘削の解析ではトンネル壁面に掘削解放力と呼ばれる荷重を加え、この時の変形を計算します。掘削解放力は、初期応力より求められます。
この荷重を少しずつ加え、そのときの応力レベルに応じて剛性を定め増分変形を計算していったとします。 偏差的な変形が進むにつれ剛性が低下していきますので、空洞内空に向かう変形は増加していきます。 初期応力状態にもよりますが、概ね同心円上に変形が進みます (図-4)。


図-4 掘削解放力による変位の増分
図-4 掘削解放力による変位の増分

他方、ニュートン法を使った計算では、やはり剛性が低下していきますので、現在のひずみレベルで生ずべき応力を求め、 余分な応力を再配分していきいます。ところが、現在のひずみレベルで生ずべき応力に初期応力も含まれていますから、 初期応力分もまとめて再配分されます。表現を変えますと、剛性が低下した分、初期応力による変形も進むということです。 初期応力は主に自重により生じていますから、剛性が低下すると沈下が進みます。したがって、 空洞内空に向かう変位と沈下変形が合わさって、空洞は押しつぶされたような変形となります (図-5)。


図-5 剛性の低下による変位の増分
図-5 剛性の低下による変位の増分

もちろん、後者の方が正解です。初期応力が存在する場合には、必ずニュートン法を用いて計算する必要があります。


ところで、初期応力が存在する場合には、偏差的な変形が進み剛性が低下してくると、必ず「沈下」に相当する 変位が発生します。例えば、被りの小さいトンネルでは、トンネル壁面だけではなく地表面も沈下します。 地盤を変形させ剛性を下げてしまったので、自重による変形が進行する結果です。これが、いわゆる「緩み」の 一部を成していると考えます。剛性が低下し尽くして0に近くなれば、例えば支保工には上部の岩盤の自重が全て作用します。 これが「緩み土圧」に相当するものです。


このように、有限要素解析において、岩盤の応力-ひずみ関係の非線形性を考慮する場合には、 初期応力の存在に十分注意する必要があります。また、初期応力が存在する故に、岩盤の変形が特徴的なものになる、 ともいうことができるでしょう。